■千葉県の経済状況とIT利活用への取り組み

千葉県は、首都圏の東側に位置し、太平洋に突き出た半島になっている。南東は太平洋に面し、西は東京湾に臨み、北西は東京都と埼玉県に、北は茨城県に接している。面積は全国第28位、人口は約620万人で全国第6位、中小企業数は13万事業所(平成18年)で全国第10位である。

東京湾に面した臨海部には重化学系工業が立地し、また、成田空港や高速道路が整備された内陸部には、工業団地や研究開発拠点が形成されている。首都圏のベッドタウン、あるいは、首都圏近郊の日帰りを中心としたレジャー拠点として、全国平均と比べて第三次産業の比率が高く(全国80.4%、千葉82.6%)、逆に第二次産業の比率が低い(全国19.2%、千葉17.0%)のが特徴であり、小売店、飲食、旅館、各種サービス業が多い。また、全国有数の農業県であると同時に、全国有数の水産県でもある。

千葉県月例経済報告(平成23年1月)によると、「県内の経済情勢は、大型小売店販売額、新設住宅着工戸数、鉱工業生産指数が前年同月比で増加したものの、新規自動車登録台数、公共工事請負額が前年同月比で減少し、企業倒産件数が増加するとともに、有効求人倍率が低水準にあるなど、依然として厳しい状況にある。」となっている。

個別の指標値では、スーパーを中心とした大型小売店販売額は前年同月比2.7%の増加、新設住宅着工戸数は前年同月比36.9%の増加、県内中小企業の業況判断指数が前年同月比で改善するなど、個人消費を中心に堅調な部分が見られる。また、県内総生産は平成14年度から5年連続で増加しており(平成19年度は19兆6,509億円(名目))、経済成長率も国を上回っている。

千葉県では、10年後の千葉県の目指す姿と進むべき方向性を千葉県総合計画として「輝け!ちば元気プラン」として定め、県民の「くらし満足度日本一」を基本理念に各種施策を展開し、商工部門ではそれを「ちば中小企業元気戦略」として具体化し、中小企業の活性化、IT利活用の推進施策として実行している。また、産・学・官・民が協力連携してIT化推進にあたる千葉県地域IT化推進協議会や、県内のIT企業が集まる財団法人千葉県情報サービス産業協会などは、積極的に地域でのIT利活用の普及促進に取り組んでおり、地域活性や地域おこしでのIT利活用、商店やサービス業、観光拠点でのIT利活用などに具体的な事例を見ることができる。

■スピード感あふれる千葉県の中小企業

そのような千葉県において、ここ最近ご縁があってお手伝いをさせていただている中小企業は、どの企業も、とても積極的である。

新規事業の立ち上げ、営業体制の見直し、あるいは、新しい販売プロモーションの採用、等々、新しい事業展開に積極的に挑戦する元気な企業との出会いが多い。もっとも、コンサルタントに相談を持ちかけるくらいだから、積極的なのは当たり前なのかもしれないが、景気や政治など他の誰かのせいにすることなく、自ら決断し、前向きに事業発展に取り組み続けるその姿勢には、こちらの方が学ぶことが多い。

そういった中小企業に共通するのは「スピード」。できること、やるべきことがあれば、「まず実行してみよう」「すぐ着手しよう」、というスピード感をいずれの企業も持っている。あれこれと取り組みたいテーマが多く、優先度や打ち手の選択に迷いはあるものの、コンサルティングを通じて課題の整理ができると、決断は迅速である。「やってみよう」とトライすることに対する意識が総じて高い。

実際、時間をかけてあれこれと検討を重ねたところで、それが上手くいく保証は無い。往々にして成功するかしないかは時の運であり、時流と自社の状態がちょうど一致したタイミングに出会わなければならない。大切なことは、準備ができていること、運をつかめる状態にあること、「その場」にいることである。まず行動を始めることによって、チャンスに出会う権利を得ることが大切である。

すなわち、打ち手を打ってみる、市場の反応を見る、そして打ち手を修正し、また実行する、を繰り返していく“PDCA”であるが、ここは思い切って“P”を省略してしまう。つまり、“D”から始まる“DCAP”のサイクル。この“DCAP”によるスピード経営が今の中小企業経営に必要な姿勢と感じている。

■中小企業は“ノンコア業務”のIT化に取り組むべし

中小企業のIT化にも、まさに“DCAP”の姿勢で取り組むべきであるが、中小企業のIT化というと、「当社は既にIT投資を終えている」と、我事ととらえない中小企業経営者も多いのではないだろうか。

確かに、中小企業の多くが、会計システム、給与システム、在庫管理システム、販売管理システム、電子メール、ホームページ、等々を、ここ3~5年で急速に導入してきている。既にそれなりの金額を投じている中で、IT導入を「やった気」になってしまう中小企業経営者が多いのも無理はないが、ここは、あらためてIT化の原点に立ち戻ってみたい。

そもそもIT化=生産性向上のツールである。ネットショップも同様だ。営業スタッフが全国を飛び回るより効率的に日本全国に商圏を拡大できるツール。そのような目線から社内を振り返ってみるとどうだろうか?社内に生産性向上の余地はないだろうか?仕事の進め方を改善することによって、今いるスタッフの仕事の生産性が上がり、結果的に仕事のアウトプットが増加する。そういう余地がどの企業にもまだまだあるのではないだろうか。

特に注目して欲しいのは、いわゆる「見積り~受注~納品~請求」という基幹業務ではなく、その“周辺業務”である。ここではそれらの業務を“ノンコア業務”と呼ぶ。例えば、販売動向を営業スタッフからExcelで集めて営業会議向けの報告書を作っていたり、製品仕様などを共有ファイルサーバにおいて複数人で共同編集していたり、お客様からの声や代理店からのフィードバックを報告書にまとめて電子メールで配信していたり・・・。個々のスタッフがそれぞれ自分のパーソナルコンピューター(PC)を利用して帳票やレポート、データ集計などをしている業務は社内に山のようにあるだろう。PCの価格が低廉化し、企業内に徐々に普及してきた結果、知らず知らずのうちに、スタッフ一人一人が担うこのような“ノンコア業務”が膨れ上がっているのである。薄く広く分散しているが故に目立たないが、一つ一つの業務に少しの非効率があれば、それを積み上げていくと、会社全体としては、相当な量の非効率性となる。逆に言えば、一つ一つの業務の生産性を向上させることで、会社全体として大きな生産性向上が期待できることになる。さらには、生産性向上により生じたスタッフの時間を、売上向上や経費削減などの“コア”業務にシフトすることができる。これが、“ノンコア業務”のIT化による生産性向上の最大の利点である。つまり、“ノンコア業務”は宝の山と言えるのである。

限られたスタッフで事業をまわしていく中小企業だからこそ、一人一人の生産性向上は業績に直接結びつく重要な指標値。スタッフがより動きやすい環境を整備し、「人材」を「人財」に変化させていくためにも、“ノンコア業務のIT化”に今こそ取り組もう!。

今や便利なITツールが安価に手に入る時代になった。クラウドコンピューティングに代表されるように、コストをかけることなく、すぐに導入し、利用を始めることができる、使い勝手の良いソフトウェアも多く登場している。“ノンコア業務”のIT化についても、そういった無償のツールなどを選択し、まずは試行してみる、その上で評価し、軌道修正し、再度計画を立てて進んで行く。そういった“DCAP”によるスピード感あふれるIT利活用の時代が到来しているのである。

千葉県では、ある製造小売企業において製品仕様書情報をWebデータベースにより一元管理している例や、マーケティング資料をクラウドサービスにより本社と支社で共有する例などがある。また、営業事務のような、ノンコア業務の事務代行に特化したアウトソーシングサービスを提供する事業者も活躍している。

2011年1月
堀 明人(ホリ アキヒト)