■2011年夏のITキーワード

 2011年7月24日、アナログ時代からデジタル時代に本格的に突入した。デジタル放送よりも人間味を感じることのできた「アナログ」でテレビを見ることはもうできないのである。本や新聞も電子化され、写真も紙ではなく、携帯電話(以下、ケータイ)やパソコン(以下、PC)で見る方が多いであろう。高齢者を集めた近所のPC教室では、デジタルカメラで撮った写真をネット上で公開する「デジカメ活用講座」などが人気であり、小学校でもPCの活用を教え、ゲーム感覚で「デジタル」に慣れ親しんでいる。
またビジネスでもインターネットが世界中に巡らされ、電子メールやホームページから始まり、ブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)等、「デジタルな」コミュニケーションツールがどんどん進化している。
本寄稿では、そのバックボーンとなる「クラウドコンピューティング」やケータイやノートPCの進化系である「スマートフォン」、「スマートパッド」等のキーワードの意味とビジネス活用について、解説する。

1、 クラウドコンピューティングとは?

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図①「クラウドの世界」

 「インターネット上に無数のデータセンターやサービスがある様」を詳細に描くことは面倒であり、多くの企画者がその様を雲の絵で表現してしまうことから、「クラウド(雲)」と名付けられた。
「クラウドの世界」(図①参照)では、世界中の人々、そしていろいろな業種で発生する膨大な量のデータ処理を安価でかつスピーディーに行うことが可能となり、その蓄積情報が価値を持ち始めた。例えば、「お弁当」の物流を考えてみよう。地上と衛星から送られたリアルタイムデータと過去の膨大なデータから来週の天気が予想され、過去の消費実績からどの程度の食材を来週農家から調達し、ある地区のスーパーへ何時に運べばよいのかが過去の渋滞データより予測されている。このように大企業ではこの「クラウドの世界」をより正確なマーケティング情報や新しいユーザサービスに有効活用しているのである。
しかし、「コンピューティング」という名前が付いているように、元々はITサービス提供側(俗にいうITベンダー)の技術的要素(革命的な大規模分散技術が実用化)の話である。大きく取り上げられている理由は、この新技術により、サービス提供者側の大きな事業転換が余儀なくされるためであり、またこのクラウドというキーワードを使った新たな営業ツールとして扱われている面もある。なおこの場合のサービスとは、主にハードウェアの貸し出し、システム開発環境の貸し出し、ソフトウェアの貸し出しである。
ITサービス使用者側から見ると、自社に置いていたサーバーがクラウドコンピューティング技術で構成された大規模データセンターに移ることが主な変化である。またコスト的には、今まで初期コストとして、かなりの金額を投入しなければならなかったが、その初期コストが安く(または無料)、月々の従量課金制で支払う方式に変わることが大きな変化である。例えると、水の確保が庭の井戸から水道へと変わって、「水を流してもらうサービス」に対して、使った分のお金を払うことに似ている。
なお以下に続くキーワード(スマートフォン、SNS、等)は、すべてクラウドコンピューティング技術が背景にある。たとえば、スマートフォンにフェイスブックなどSNSアプリケーションを追加する場合は、クラウドのデータセンターからダウンロードしている。

2、 進化した携帯端末

① スマートフォン
通称、「スマホ」または、「スマフォ」と呼ばれており、携帯電話・PHSと携帯情報端末(PDA)機能が付いた携帯端末である。分かりにくければ、通話機能付きの小型PCと考えてもらえばよい。日本では、アップル製のiPhoneやサムスン製のGalaxyなどが販売されている。iPhoneなどスマホの利点は、主にケータイと比べて、大きく4つある。
(ア)PCとの親和性が高い。PCメールも受信・送信できる。
(イ)自分専用に色々な機能(アプリ)追加ができる。
(ウ)高画質の動画や写真が閲覧できる。画面が大きく見やすい。
(エ)無線LANが使えるので、パケット代が節約できる。
弱点としては、ケータイと比べ、値段が高いのとWEBサイトが小さくて見にくい等などである。またタッチに慣れが必要で入力が遅くなったという話もある。筆者の経験では、会話中に耳が「ミュート」部分などに触り、通話が急に聞こえなくなることがあり、また乾燥した指ではスクロールできなくなる、とかを経験している。
② スマートパッド
モバイルとしては、iPadなどのタブレット端末の利用も拡大している。最近は「スマードパッド」と呼ぶことが多い。このスマートパッド(=タブレット端末)の利点は、主にノートPCと比べて、大きく4つある。
(ア) 持ち運びが便利。
(イ) 起動が速い。
(ウ) バッテリーの寿命時間が長い。(iPadで10時間)
(エ) みんなで見やすい。商談時にかかせないツールになりつつある
弱点としては、「値段が高い」、「ハードキーボードがない」、「操作画面を隠しにくい」辺りだが、ファッション性も兼ね備えており、非常に利用者が増えている。
ビジネス活用例では、商談時に提案説明と在庫確認で活用したり、展示会で商品説明とアンケート取得にて活用する場面等を見かけることが多くなっている。

3、 急速に普及したSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)

① SNSとは?
震災直後の安否確認や情報共有などで威力を発揮したことで、日本でも一気に利用者が急増している。インターネット上で社会的な関係性を構築する行為、または形成されたネットワークを指し、ツールとしては、facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、日本ではmixi(ミクシィ)等である。スマートフォン利用拡大との相乗効果もあり、利用者がうなぎ上りとなっている。SNSは単なる情報共有ツールではなく、「今ここ」のリアルタイム性、「友達の輪が拡げやすい」等で、新時代の「絆」形成ツールとなっている。
② フェイスブック
世界で利用者数NO.1のSNSである。特徴としては、実名が一般的(匿名では友達関係はできにくい)なので、信頼性の高い関係性に向く。北アフリカや中東の民主化、いわゆるフェイスブック革命で日本でも一躍有名になり、また映画「ソーシャルネットワーク」でその誕生秘話が話題となっている。利用は無料でアカウント作成⇒プロフィール作成(データ公開範囲に注意)⇒友達の依頼や承認⇒ニュースフィードへの書き込みや友達のコメントや写真に「いいね」ボタンを押したり、コメントすることによって、意思表示を行う。
③ ツイッター
いわゆる「つぶやき」をインターネット上で投稿する場となっている。瞬間的に過去最大(2011年7月31日時点)となったのは、日本代表「なでしこジャパン」が7月17日の決勝で優勝を決めた直後、1秒間に7196件の投稿があった。PCからのつぶやくもあるが、圧倒的に携帯電話やスマートフォン、iPadなどの携帯できるモバイル機器から発信している。なお匿名可能なので非常に緩い関係性に向く。若者向けのお店やネットショップを持つ企業様にはお勧めしているが、売り込みが過ぎると逆効果になるので注意が必要である。それ以外の特徴は、「検索可能であること」、「140文字以内という制限あり」である。

4、 ビジネス活用のヒント

「企業内担当者」対「企業内担当者」のコミュニケーションは、大きな流れとして、twitterなど匿名OKのSNSからフェイスブックのような原則実名のSNSへ移行しつつある。SNS上での「共感」が信頼関係に繋がり、そしてビジネスチャンスに発展する例が増えつつある。筆者の経験では、「共感」した方へ講演を依頼したり、「共感」した食材や本を購入したりしている。
すべてのコミュニケーションツールの特性を理解し、すべての組み合わせで活用することが望ましいが、中小企業では対応する人材も時間も限られており、集中して活用することをお勧めする。業種別のコミュニケーションツールについて、適正化を考察した表(表1「中小企業業種別のコミュニケーションツール考察表」)をご覧いただきたい。 たとえば、飲食店は「今、ここ」の情報価値を顧客に伝えて購買数を伸ばすには、ツイッターが望ましい。ある日、「活きのいい魚」や「旬の野菜」が大量に入荷できたことをつぶやき、お得なメニューがあることをすぐに伝える等である。当日や翌日などの購買を期待するには、HPへの掲載やブログアップでは遅い。逆に自社の技術的な優位点や今までの豊富な実績を伝える必要がある製造業などは、徹底的にHPを充実させてから、実績などの蓄積としてブログに掲載する等、その他のコミュニケーションツールへ挑戦した方がよい。大会社でもない限り、瞬間的な情報価値提供ツールのツイッターは不要である。(当然、イベントの紹介や小売りも行う製造メーカーは除く)

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表1「中小企業業種別のコミュニケーションツール考察表」
どんな企業でも固定客やファンがいなければ何をやっても大きくは成長しない。ツールのテクニックで一時的に売り上げを上げてもその対応で人を増やしたり、設備を増やしてしまっては、逆効果にさえなる。小規模企業でも長く続けられる戦略と地道なファン作りが重要であり、それを本気で実践するのであれば、その上でうまくIT利活用することを考えればよいのである。

2011年9月
野村 真実(ノムラ マサミ)
一般社団法人千葉IT経営センター 代表理事